衛星コンステレーションが鍵?国内の「宇宙技術」関連銘柄ガイド

かつて国家プロジェクトの領域であった宇宙開発は、近年は民間企業が主役となり、新たなビジネスフロンティアを切り拓く新時代に突入しました。
宇宙開発はもはや壮大な夢物語ではなく、現実の事業として確立され、その分野で日本のスタートアップや大手企業が台頭しつつあります。
その事業領域は実に多様です。人類の活動圏そのものを月へと広げようとする挑戦。無数の小型衛星を連携させ、天候に左右されず地球全体を常時観測するインフラの構築。そして、増え続ける宇宙ゴミを除去し、宇宙空間の持続可能性を確保するサービス。各社が独自のビジョンと技術を掲げ、しのぎを削っています。
彼らの多くは先行投資フェーズにありながらも、政府機関との連携や独自の資金調達によって、着実に技術実証と事業化を進めています。本記事では、そんな日本の宇宙ビジネスを挑戦する上場企業を紹介していきます。
九州大学発の宇宙ベンチャー、株式会社QPS研究所は、地球上の任意の場所を準リアルタイムで観測可能にする世界の実現を目指しています。
その目標を支えるのが、世界でも数少ない企業しか商業化していない、高分解能な小型SAR衛星です。
同社の技術的な核心は、宇宙空間で直径3.6mもの大きさに“開く”ことができる、独自の展開式アンテナにあります。この技術により、アンテナの性能を維持したまま衛星本体の小型化と低コスト化を達成し、46cmという高い分解能での観測を可能にしています。
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九州大学で培われた学術的知見と、九州の地場企業との産業連携との融合が、この技術の根幹を成します。これにより、同社は高分解能小型SAR衛星市場で着実な運用実績を築きつつあります。
事業面では、国の宇宙戦略基金に採択されており、主に国内の官公庁向けにデータを提供しています。今後は民間や海外市場への展開も計画しています。
衛星の減損損失計上や、開発費先行による営業赤字といった課題も見られますが、独自の技術力と堅実な事業戦略によって宇宙からのデータ活用を具現化することが、同社の目指すところです。
>> QPS研究所の企業情報
株式会社ispaceは月面開発の事業化に挑む日本の宇宙スタートアップ企業です。同社は、月輸送サービスの提供を事業の軸とし、地球と月がひとつの経済圏となる未来を目指しています。
その構想を実現する具体的な手段が、自社で開発する小型ランダー(月着陸船)とローバー(月面探査車)。これらを用いて、政府機関や民間企業などのペイロード(搭載物)を月へ輸送する高頻度・低コストのサービスを構築します。
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同社は民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」を推進しており、その特徴の一つに、先行ミッションで得られたデータやノウハウを後続のミッション開発へフィードバックするプロセスが挙げられます。
また、NASAの商業月面輸送サービス(CLPS)に選定されたほか、欧州宇宙機関(ESA)とも契約を結ぶなど、世界の宇宙機関との連携を進めている点も事業の特色として挙げられます。
先行投資による損失や開発の遅延といった課題はありますが、同社は多様な資金調達手段を確保しつつ、月面開発というフロンティア領域での事業化への挑戦を続けています。
>> ispaceの企業情報
宇宙からのアプローチで地球規模の課題解決に挑むのが、株式会社Synspective。同社は、衛星開発(ハードウェア)とデータ解析(ソフトウェア)を垂直統合し、独自のソリューションを提供する宇宙テクノロジー企業です。
その技術の核となるのが、自社で開発・運用する小型SAR衛星「StriX」です。その特徴は、従来のSARと比較して小型軽量化を図り、製造コストの抑制を目指している点。
光学衛星と異なり、天候や昼夜に左右されずに地表を観測できるSARの特性から、災害対応や安全保障といった分野での活用が見込まれます。
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同社が構想するのは、多数の「StriX」を連携させた「SAR衛星コンステレーション」を構築し、地球全体を網羅する観測インフラを確立することです。
さらに、衛星から得られる膨大なSARデータを自社の専門チームが解析。ミリ単位の地盤変動を監視するサービスや、AIを用いて船舶や航空機を自動で検知・分類するソリューションなどを開発し、政府機関や民間企業に提供しています。
内閣府のプロジェクトから生まれたという経緯もあり、政府との関係性を有しています。まずは安全保障分野などへのデータ販売から事業基盤を構築し、将来的には構築した衛星インフラを活用したソリューション事業を展開する計画です。
精密機器メーカーのキヤノン電子は、グループの技術力を結集して宇宙ビジネスに新たな風を吹き込んでいます。
同社の挑戦の核は、デジタルカメラで培った光学技術と、部品から衛星本体まで手掛ける「100%内製化」を目指すこだわりです。
その独自性を最も象徴するのが、超小型人工衛星「CE-SAT-IIB」が捉える「夜の地球」の姿にあります。搭載された超高感度カメラは、月明かり程度のわずかな光を捉え、夜間の都市の灯りやインフラを鮮明に映し出すことが可能。
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この夜間撮影能力は、経済活動の分析や防災・安全保障などへの応用が考えられています。
また、防衛省との実証衛星契約が既に締結されるなど、事業化への取り組みは着実な進展を見せます。
他にも、関連会社ではロケット打ち上げ事業も手掛けており、製造からデータ利用、打ち上げまでを見据えたキヤノングループの宇宙ビジネスの展開を目指しています。
>> 『右手にカメラ、左手に事務機』キヤノンの獲った2つの天下とM&A戦略の新展開!
アストロスケールホールディングスは、増え続けるスペースデブリ(宇宙ゴミ)が問題となる中、デブリ除去をはじめとする「軌道上サービス」の実現を目指す企業です。
同社は事業の柱として、主に4つのサービスを想定しています。運用を終えた衛星を除去する「EOLサービス」、既存のデブリを除去する「ADRサービス」、衛星の寿命を延ばす「LEXサービス」、そして軌道上の物体を観測・点検する「ISSAサービス」です。
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その競争力の源泉は、軌道上サービスの必須技術である「RPO(ランデブ・近傍運用)」にあります。これは、宇宙空間で非協力的な物体に安全に接近・観測する技術です。
実証衛星「ADRAS-J」を用いて、軌道上でこの技術の実証ミッションを進行しています。
米国や欧州などではデブリ低減に関する規制強化の動きがありますが、アストロスケールはこうしたルール策定にも積極的に関与し、事業環境を自ら整える戦略をとっています。
アジア最大級の衛星通信事業者として放送・通信インフラを支えてきたスカパーJSATホールディングス。同社は、宇宙アセットを駆使して社会課題を解決する「宇宙実業社」へと、大きな変革を遂げつつあります。
その未来戦略の核心は、「Multi-Orbit(多軌道)」と「Multi-Asset(多アセット)」にあります。
従来の静止軌道衛星に加え、低軌道衛星や成層圏までを連携させた多層的なネットワークを構築し、アセットも通信衛星だけでなく、地球観測衛星や宇宙状況把握(SSA)衛星へと多様化。これにより、あらゆるニーズに応える宇宙ソリューションプロバイダーを目指す戦略を掲げています。
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この度の変革において、「スペースインテリジェンス事業」は注力分野の一つとして位置付けられます。本事業は、天候の影響を受けないSAR衛星のデータを独自の技術で解析し、インフラの変動監視をはじめとする各種サービスを展開するものです。
これらの取り組みは、データ販売に留まらず、分析を加えた情報として提供することを目指すものです。
さらに、NTTと連携したHAPS事業(高高度プラットフォーム)や、レーザーによる宇宙ゴミ除去といった領域にも取り組んでいます。これらは長期的な視点での取り組みであり、同社は放送事業に加え、宇宙に関する総合的なサービスの提供を目指しています。