【100円ショップ】円高再到来なるか?デフレ時代の申し子、代表銘柄4社+αを紹介

日本において特徴的な小売業態の一つである「100円ショップ」。帝国データバンクによれば、2023年度の市場規模は初めて1兆円を突破し、前年から約5%成長しました。物価高の中で消費者の節約志向が強まり、安価な生活必需品・日用雑貨への需要が高まりました。
大手4社(ダイソー、セリア、キャンドゥ、ワッツ)の店舗数は2024年3月時点で合計約8,900店に達し、この10年で1.5倍(約3,000店増)に拡大。各社とも郊外の大型店から都市の小型店まで積極出店を続けており、市場全体として年間100店規模の増加ペースが続いています。
その一方、昨年にかけて続いた円安や原材料高、人件費上昇などコスト面の逆風が大きく、市場全体の「飽和感」もあいまって経営環境は悪化しました。各社はセルフレジ導入などで運営効率化を図り、300円や500円の商品ラインナップを拡充して客単価向上を模索しています。格安商品を欲しがる顧客層がコアであるため、高価格帯商品の訴求が難しいという根本的な難しさもあります。
そんな中で近年、勢いを増しているのが『3COINS』を展開するパルグループホールディングスです。今回の記事では、100円ショップの大手四社にパルグループHDを加えた五社について、そのビジネスモデルと戦略について概観します。
100円ショップ最大手のダイソー(大創産業)と言えば、業界を代表する存在です。1977年に矢野博丈氏が路上販売からスタートし、「安かろう悪かろう」のイメージ払拭のため品質と品揃えに注力しました。
1991年に1号店を開店して以降、デフレ時代の波に乗り、膨大な店舗網を築きました。海外進出にも積極的で、これまでに世界約25の国と地域で5,000店超を展開しました(国内店舗は約4,400店)。2023年度(2023年3月~2024年2月)の売上高は過去最高の6,249億円に達します。
ダイソーのビジネスモデルの強みは、その「圧倒的な商品力と集客力」にあります。常時数万点にも及ぶ豊富なアイテムを扱い、日用品から雑貨、食品に至るまで幅広いニーズに“一律100円”で応えます。大量一括仕入れによる強烈なバイイングパワーで、海外の生産拠点と直接取引するスケールメリットで独自の商品開発を進め、季節商品やトレンド商品も次々と投入して来店動機を高めます。
近年は「脱・100円」に向けた新業態にも乗り出しています。2021年には300円を中心価格帯とした新ブランド「Standard Products」を立ち上げ、上質な生活雑貨を展開開始しました。既存の300円ショップブランド「THREEPPY(スリーピー)」を2022年にリブランディングし、若年女性向け雑貨店として刷新。今後は新業態を含めた多価格帯戦略で顧客の多様化するニーズに応えつつ、海外展開もさらに強化する方針。2030年には世界1万店舗・売上高1兆円規模を目指すと言います。
歴史を知るなら>>世界5,270店舗を展開!日本一の100円ショップとなった「ダイソー」と創業者・矢野博丈氏の半生
業界第2位のセリアは、「おしゃれな100円ショップ」として高い支持を得ています。本社を岐阜県に置き、1987年に創業。2000年代後半にはキャンドゥを追い抜いて売上規模第2位に達しました。
店舗数は2024年3月末時点で直営1,986店・FC37店の計2,023店。100円ショップ市場全体の約2割強を占める規模でありながら、従業員数は本部正社員わずか数百人とスリムな体制を維持している点も特徴です(パートタイマー約1.1万人)。
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セリアは「100円で暮らしに驚きと感動を」というスローガンを掲げ、「量より質」を追求する独自路線をとってきました。全商品を原則として税込110円に揃え、デザイン性や機能性に優れた良品を訴求。派手な広告や大規模なキャンペーンは行わず、商品力と店舗の心地よさでリピーターを獲得する戦略です。
ナチュラルテイストのキッチン雑貨やDIY素材、おしゃれなインテリア小物など「こんなものが100円で!」と感じさせるアイテム開発に注力し、若年層や主婦層から高い支持を受けています。直営中心のため店舗オペレーションや商品陳列の統一感を保ってブランドイメージを管理している点も特徴です。
もっと詳しく>>100円ショップ四強の“残存者利益”──セリアが描く飽和市場サバイバル
業界第3位のキャンドゥは、首都圏を中心に1,300店以上を展開する100円ショップチェーンです。設立は1993年と大手では最も新しく、2004年に東証一部上場を果たしました。
2021年には流通大手イオンによる友好的TOBを受け入れ、イオングループの一員となっています(株式保有比率51%)。これに伴い決算期を11月から2月に変更するなど経営体制を強化し、グループシナジーを活かした再成長を目指しています。
2023年に決算期を11月→2月に変更
特徴の一つは、他業種との提携による店舗網拡大です。直営店に加え、FC店舗や委託運営店を全国で展開しており、特に大手ホームセンターのDCMグループとは2018年にFC契約を結び、その店舗内にキャンドゥを出店する取り組みを行っています。ドラッグストアや食品スーパーの一角にコーナー出店するケースも多く、単独路面店のみならず他流通チャネルとの協業で販売網を広げてきました。
商品構成は日用品・消耗品に強く、「まいにちに発見を。」というコーポレートメッセージのもと定番品でも何か新しさや便利さを感じる商品を揃える方針。加工食品や掃除用品など実用アイテムの品揃えに定評があり、顧客の生活圏内で気軽に立ち寄れる店舗立地戦略と相まって堅実なファン層を築いています。
近年のキャンドゥは、親会社となったイオンとの協力関係をテコに巻き返しを図っています。イオン系列の総合スーパーや食品スーパー店内へのキャンドゥ導入を進め、2022年以降出店ペースを加速。既存店の刷新にも着手しており、「発信型のライフスタイル提案ショップ」という新コンセプトを掲げた『New Can★Do』業態の導入を進めています。
大手3社に比べ店舗規模は小さめながら、ユニークな戦略で存在感を示すのがワッツです。1995年に大阪で創業し、関西発の100円ショップ「ワッツ」を屋号にチェーン展開を開始しました。
同社の特徴は、小規模店舗を全国津々浦々に広げるネットワーク戦略です。ショッピングセンター内や食品スーパー店内の一角など、比較的コンパクトな売場面積の店舗を多数出店し、地域密着型で効率的な運営を行っています。展開ブランドも多彩で、創業当初からの「ワッツ」のほか、過去のM&Aで取得した「ミーツ」「シルク」「フレッツ」「百圓領事館」など複数の100円ショップブランドを展開します。
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2020年代に入り店舗ブランド「ワッツ」への統一を進めていますが、地方では今なお旧ブランド名の店舗も見られ、合算するとグループ全体の店舗数は1,100店規模に及びます(2023年時点)。売上規模ではダイソーの約1/10ですが、着実に業容を拡大してきました。
ビジネスモデルとして、ワッツは「小商圏での収益化」を重視しています。他社が大型店で多品種を展開するのに対し、ワッツは売れ筋商品を厳選してコンパクトな売場に効率的に陳列することで、狭い商圏でも採算を取れる店舗運営を図ります。
郊外のロードサイド店舗よりも生活導線上のスーパー内テナントなどを重視し、固定費を抑えつつ日常利用の需要を取り込んでいます。本部機能を大阪に集約し、人件費や物流費などのコスト管理にも注力。その結果、売上規模が劣る割に営業利益をプラスに維持し続けています。
今後に向けて、ワッツは自社ブランド力の向上に注力しています。前述のように店舗名を順次「ワッツ」に統一し、全国どこでも同じブランド体験を提供できるようにしているほか、SNSやECにも注力。大型店競争に巻き込まれないよう、これまで通り小型店ドミナント出店で空白地域を開拓しつつ、ショッピングモール内への大型店出店にも選択的にチャレンジしています。
最後に番外的な存在として紹介するのがパルグループホールディングスです。同社は元々アパレル中心の小売グループですが、自社ブランドの300円ショップ「3COINS(スリーコインズ)」事業が大ヒットし、100円ショップ業態に隣接する市場で大きな成功を収めています。
3COINSは「300円でちょっと幸せ」をコンセプトに、生活雑貨やインテリア小物、ファッションアクセサリーを税込330円均一(一部商品はそれ以上)で提供する雑貨店。2004年に1号店をオープンして以来、若い女性を中心に支持を広げ、急速に店舗網を拡大してきました。2023年度末時点で国内店舗数は約340店に達し、300円ショップ業態の代名詞的存在となりました。
パルグループ全体の売上高に占める雑貨事業の比率も年々高まり、2024年2月期には雑貨事業売上高725.7億円とグループ売上の37.7%を占めるまでになりました。その大部分を担う『3COINS』の成長が、パルグループを4期連続の過去最高売上へ導く原動力となっています。
『3COINS』成功の背景には、ファッション企業であるパルグループの感性やノウハウが活かされています。デザイン性が高くトレンドを押さえた雑貨を低価格で提供し、「かわいいのに300円」という高いコストパフォーマンスが評判を呼びました。大型商業施設や駅ビルへの積極出店に加え、自社ECサイトを活用したオムニチャネル戦略も奏功。特にSNSでの情報発信力に長け、インスタグラムやTikTokでヒット商品を生み出すなど若年層の心をつかむマーケティングを展開しています。
2022年に雑貨セレクトショップ「ASOKO(アソコ)」を手掛ける会社を吸収合併するなど、雑貨分野のブランド拡充にも積極的です。3COINSについても大型店業態「3COINS+(プラス)」の展開や既存店の売場拡大を進め、取扱商品の幅を広げています。地方都市や海外マーケットへの出店も検討しており、成長余地はまだ大きいとされています。