大阪万博の経済効果をIRで読み解く~収益機会を広げる注目企業7選~

西日本旅客鉄道

2025年に開催される「大阪・関西万博」は、関西経済にとって久々の大型イベントとして期待されています。
経済産業省が2024年3月に発表した試算によると、万博開催による経済波及効果は全国で約2.9兆円に上る見込みです。

企業各社は、この万博がもたらすビジネスチャンスに注目し、IR(投資家向け広報)情報などを通じて、自社の成長機会として位置づける動きを強めています。

本稿では、大阪万博の経済効果の概要とその特需構造を整理したうえで、万博を収益拡大の好機と捉える注目企業7社の戦略について解説します。

大阪万博の経済波及効果とは?

大阪・関西万博の経済効果については、官民の様々な機関が試算を行っています。
前述の通り、経済産業省は2024年3月、万博関連事業による全国への経済波及効果を約2.9兆円と発表しました。

経済効果として、まず大規模な会場建設やパビリオン設営、イベント運営といった直接的な需要が発生します。
次に、それに伴う建設資材や設備の調達、関連サービスへの支出などが間接的な需要を生み出します。
さらに、これらの事業活動に従事する人々の消費などが誘発需要となり、経済全体へと段階的に波及していく仕組みです。

この影響は、建設、イベント・内装業、警備・輸送などのサービス業はもちろん、国内外からの来場者増による観光・宿泊・交通業、さらには公式記念品販売などに関わる製造・小売業まで、広範な業種に及ぶとみられます。

IR資料で読み解く“万博特需”の構造

企業のIR資料からは、大阪万博を短期的な特需としてだけでなく、中長期的な成長戦略の中に組み込む姿勢がうかがえます。

具体的には、万博会場を次世代インフラやエネルギー、デジタル技術といった最新技術の実証実験の場と捉え、社会実装への布石とする動きが見られます。 また、訪日客増加や関連都市開発による複数事業への好影響を見込み、数値計画に織り込む企業も増えています。

さらに、万博特需は2025年の閉幕後も続き、特に同じ夢洲で予定される統合型リゾート(IR)計画との連動性が重視されています。
企業のIR資料でも「万博+IR」という文脈で関西経済の活性化が語られるケースが多く、万博を起点とした継続的なビジネスチャンス拡大を視野に入れた戦略が読み取れます。

収益機会を広げる注目企業7選とその戦略

大阪万博は、多くの企業にとって技術力やブランド価値を国内外に示す絶好の機会です。
特需による短期的な収益だけでなく、万博を通じた事業実証や地域開発、グローバル展開など、中長期的な視点での投資も活発化しています。

ここでは、IR資料に基づいて、万博を成長の起点とする7社の戦略を読み解きます。

西日本旅客鉄道株式会社(9021)

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JR西日本は、大阪・関西万博の開催に合わせて、鉄道アクセスの強化や駅施設の改良を進めています。
これらは、万博による大幅な輸送需要増に対応するとともに、万博を契機とした広域的な観光需要の喚起を目的としています。
具体的には、会場最寄り駅の一つとなる弁天町駅の改良や、桜島線の輸送力増強などを実施するほか、万博と関西各地を結びつける旅行商品の開発・販売にも取り組んでいます。

同社のIR資料では、万博が創出する観光需要は沿線経済全体に好影響を及ぼし、会場へのアクセス輸送や地域活性化のハブとしての役割を通じて、自社の収益機会にも繋がると説明しています。

さらに、万博を一過性のイベントに終わらせず、将来の成長に繋げるための施策も進めています。
万博後も見据えたMaaS(Mobility as a Service)の開発や関連アプリの提供を通じて、持続可能な観光基盤を整備し、関西圏への継続的な観光客誘致を目指す考えです。

これらの交通事業を中心とした取り組みに加え、うめきた(大阪駅北側)エリアの開発や、将来の統合型リゾート(IR)計画との連携も視野に入れており、万博を契機として関西の国際観光拠点化に貢献し、自社の中長期的な成長に繋げるための施策が具体化しつつあります。

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日本電信電話株式会社(9432)

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NTTグループは、大阪・関西万博において、自社が推進する次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」などの先進技術を駆使した「デジタル万博」の実現に貢献します。
具体的には、IOWNを活用した高臨場感のバーチャル体験の提供や、会場内の安定した通信インフラの構築などを担っており、これらは万博を最先端技術のショーケースと位置づけ、自社の技術力を国内外にアピールする狙いがあります。

また、万博開催を見据えた都市開発の一環として、大阪市内でのホテルや文化施設の新規開業も進めています。
これらの取り組みを街づくりや都市型スマートシティ戦略の一環としており、万博が自社の関連事業推進に与える好影響に期待を示しています。

NTTは万博を「未来社会の実験場」と捉え、自社技術の社会実装を加速させるとともに、新たな事業創出の機会にしようとしています。
万博期間中に取得・蓄積される様々なデータや実証実験から得られる知見は、大会終了後もスマートシティ関連のインフラ提案などに活用される構想であり、万博での経験がNTTグループの今後の技術開発や事業展開に影響を与えると考えられます。

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株式会社エイチ・アイ・エス(9603)

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旅行大手のH.I.S.は、大阪・関西万博を重要な事業機会と捉え、「大阪・関西万博推進室」を社内に設置しました。
万博による訪日外国人観光客(インバウンド)の大幅な増加を見込み、関連するプロモーション活動や旅行商品の造成に注力しています。
具体的には、万博公式チケットの販売代理業務や、国内外の顧客を対象とした団体・個人向けツアーの開発、オンラインでの体験ツアー提供などを展開中です。

また、世界57か国143拠点(※時期により変動可能性あり)に及ぶ自社の海外ネットワークを最大限に活用し、地域や関連業種とも連携しながら、万博へのインバウンド誘致を強化することで、業績への直接的な貢献を目指しています。

さらに同社は、万博終了後も見据えた戦略を展開しています。万博関連事業を通じて得られる観光に関する知見や顧客データ、構築されたネットワークなどを、将来的には地域創生事業に応用していく方針です。
例えば、万博開催前に熊本県で実施し、延べ10万人を動員した台湾関連イベントのように、地方都市への送客や活性化に繋げる取り組みを強化しており、万博での経験がH.I.S.の今後の地域創生ビジネスの展開基盤となることが期待されます。

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セコム株式会社(9735)

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セコムは、大阪・関西万博において会場全体の警備・セキュリティ面で中核的な役割を担います。
また、先端技術を紹介する「TECH WORLD」パビリオンも出展し、万博を自社の技術力とブランドイメージ向上の機会と捉えています。

会場警備では顔認証ゲートやドローン監視といった最新ソリューションを導入しています。
同社はIR資料などで、こうした大規模な国際イベントにおける先端技術の運用実績が、将来のサービス開発や国内外での販路拡大に繋がるものと期待を示しています。
万博での安心・安全な環境提供の実績は、同社の信頼性を高め、今後の空港、統合型リゾート(IR)施設、大型スタジアムといったセキュリティ需要が見込まれる分野でのビジネス拡大にも貢献すると考えられます。

このように、万博は同社にとって技術とブランドの両面で成長機会をもたらすと位置づけられます。
さらに、万博での経験やネットワークを活かし、将来的にはスマートシティ向けの防災・防犯プラットフォーム開発に注力する構想も持っており、万博が新規事業展開に影響を与える可能性もあります。

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株式会社大林組(1802)

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スーパーゼネコンの一社である大林組は、大阪・関西万博のシンボルとなる「大屋根(リング)」の建設をはじめ、複数のパビリオン工事を手掛けており、これらは同社の建設実績として企業評価にも影響を与えると考えられます。
特に、大屋根(リング)では木造建築技術を活かした世界最大級の構造物に挑戦しており、同社の高い技術力を国内外に示す好機となります。

IR資料では、大阪・関西万博関連工事の取り組みについて報告されており、2024年3月期第2四半期決算説明資料にて万博事業の進捗が記載されています。 また、2019年には「大阪関西万博・IR室」を設置し、万博および将来の夢洲エリア開発や関西経済の発展に貢献する体制を整えていることを発表しました。

これは、万博を単なる一過性のイベントではなく、次の成長への足掛かりとする戦略の表れであり、将来の大型プロジェクト受注に向けた布石とも解釈できます。

加えて、会場施工におけるデジタル技術を活用した施工管理の導入や、持続可能な素材の活用など、同社が推進する建設業のDXやGXを具体的に示す取り組みも注目されます。
万博は、これらの先進的な取り組みをアピールする場となり、業界内での技術的優位性を示す効果が期待されるでしょう。

清水建設株式会社(1803)

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清水建設は、万博会場内で日本政府館やパナソニックグループのパビリオン建設を担当するほか、会場内で利用される水素エネルギーの実証システム「Hydro Q-BiC Lite」を提供します。
再生可能エネルギーと水素を活用したこのクリーンなエネルギー供給システムは、万博が目指すサステナビリティの実現に貢献するとともに、同社の環境技術力を具体的に示すものとなります。

また、廃棄されるホタテの貝殻を再利用したベンチの会場への設置や、環境に配慮した内装材の提供など、建築資材の面でもサステナビリティを追求しています。

これらの取り組みにより、万博は同社のSDGs(持続可能な開発目標)に対応した技術の実証・アピールの舞台ともなります。
ここで得られた知見や実績は、今後の公共施設や民間建築プロジェクトへの技術適用に繋がり、同社の環境戦略を推進し、企業イメージ向上や将来の受注獲得に寄与すると考えられます。

阪急阪神ホールディングス株式会社(9042)

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阪急阪神ホールディングス(HD)は、大阪・関西万博と、その後の統合型リゾート(IR)計画を関西経済の大きな成長機会と捉え、グループ内の交通、ホテル、旅行といった事業を横断した対応を展開しています。

具体的には、傘下の阪急交通社による万博関連ツアーの造成・販売や、神戸空港でのチャーター便受け入れ準備などを進めており、万博がもたらす交流人口の増加をグループ全体の収益向上に繋げる狙いです。

同社のIR資料では、万博後も見据えた関西広域での観光ルート形成戦略を掲げており、万博を一過性のイベントとせず、持続的な集客力と沿線価値の向上に繋げようとしています。
加えて、将来の大阪IRへの出資方針や、「梅田一極集中から沿線多極分散へ」という長期的な都市開発ビジョンも示しています。
これらは、万博を契機として関西全体の魅力向上に貢献しつつ、自社グループの長期的な企業価値向上を目指す戦略の表れと言えるでしょう。

今後は、万博を通じて得られる経験や高まるブランド力を活かし、観光・商業・文化を一体的に発信する新たな都市型サービスの展開も視野に入れていると考えられます。

大阪万博が企業成長にもたらす中長期的インパクト

大阪・関西万博に関連する企業は、イベント期間中の短期的な特需獲得に留まらず、万博を「未来への投資」と捉え、中長期的な成長戦略を描いています。 万博で構築されるインフラやネットワーク、そして実証される技術は、次なるビジネス展開の土台となる可能性を秘めています。

具体的な戦略には、万博開催地・夢洲でのIR計画連携による継続的な収益機会創出、イベント・展示関連企業による万博での技術・実績の他分野への横展開が含まれます。
さらに、観光・交通業界による万博後を見据えたMaaS導入・施設改良等のインバウンド対策や、先端技術実証によるイノベーション創出と将来の事業機会獲得も戦略として考えられます。

これらは、万博を一過性のイベントに終わらせず、そこで得られた経験や資産、ブランド力を最大限に活用し、持続的な成長エンジンへと転換しようとする企業の明確な意図を示しています。
総じて、大阪・関西万博は参加企業にとって短期・長期両面での重要な成長機会であり、各社がそのポテンシャルを自社の飛躍に繋げようと真剣に取り組んでいる様子がうかがえます。