「トランプ関税」の再来、日本企業への衝撃:影響を受ける業種と銘柄は?

2025年3月末、米国のドナルド・トランプ大統領が輸入自動車への25%関税発動を正式に表明しました。同盟国も例外なく対象となり、日本製の自動車・自動車部品には平均24%の高関税が課されることとなります。
さらに関連部品や一部の鉄鋼製品にも段階的に適用範囲を広げており、世界の貿易体制に大きな衝撃が走っています。
日本企業や経済界からは「極めて遺憾な措置」として、政府に対し緊急の外交交渉を求める声が相次いでいます。
今回は、トランプ関税政策の概要と影響を整理し、日本のどの業種・企業が打撃を受けやすいか、最新動向を踏まえて考察します。
トランプ氏は2017年から2018年の在任中にも「アメリカ第一」を掲げていました。この方針のもと、中国との貿易戦争や、鉄鋼(25%)・アルミ(10%)への関税措置で各国を揺さぶりました。
また、日本や欧州の自動車にも追加関税を示唆してきました。
しかし、一連の関税は同盟国の反発や世界経済への悪影響もあり、自動車への本格的な制裁関税は見送られていました。
ところが2025年、トランプ氏の大統領復帰により現実のものとなりました。米政権は「通商拡大法232条」を根拠とし、安全保障上の脅威と判断しました。そして、米国産以外のすべての完成車を対象に25%の輸入関税を発動しました。
併せて「相互関税(リシプロカル関税)」と称する包括的な追加関税策も打ち出されました。
自動車以外の特定セクターにも段階的に高関税が適用されつつあります。トランプ政権は「不公正な貿易是正と米国製造業の振興」が目的とうたっています。
ただ、その急進的な手法は国際ルールを覆すものであり、市場では混乱と先行き不透明感が広がっています。
日本政府は発動直前の3月下旬から、米側に強い懸念を伝え、同盟国としての適用除外を求め続けてきました。しかし、トランプ政権は一切の例外を設けない方針を崩しませんでした。 その結果、日本への24%関税適用が決定されました。
今回の関税措置により、輸出依存の高い日本企業は大きな影響を受けています。特に自動車、自動車部品、素材、電子機器などのセクターは注意が必要です。
自動車メーカーでは、日本からの米国向け輸出が直撃を受けています。トヨタやホンダは北米市場に強みを持ちますが、それでも輸出台数は依然として多くあります。関税の影響で車両価格が上昇すれば、販売台数の減少が避けられません。
自動車部品メーカーも影響は深刻です。完成車の減産が部品需要に波及し、調達の現地化が加速する可能性もあります。これにより、日本から米国への部品供給が減少する懸念が強まっています。
鉄鋼や化学などの素材メーカーも、自動車産業向け需要の縮小に直面しています。また、自動車以外の対象製品が関税の網にかかる可能性も高まり、警戒が必要です。
電子機器や部品は直接的な関税対象ではありません。しかし、米中摩擦の激化による景気悪化や、半導体関連の制裁拡大によって、間接的な打撃を受ける可能性があります。
次に、関税の影響を受けやすい企業について見ていきます。各社の決算資料をもとに、現状と対応を整理します。
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トヨタ自動車は北米市場で全体売上の3割超を稼ぎますが、そのうち日本から米国への完成車輸出は約2割強にとどまります。
米国内に10拠点の工場を構え主要車種を現地生産する体制で、関税リスクを抑えています。
2024年3月期決算では北米における販売価格改定などを追い風に増収増益となりました。
2025年4月に米国が輸入車へ25%の追加関税を発動する中でも、トヨタは在庫を積み増す駆け込み輸出を行わず落ち着いた対応を示し、強固な財務基盤と分散生産戦略で関税の影響を限定的にとどめています。
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世界第2位の自動車部品メーカーであるデンソーは北米売上比率が約24%にのぼり、現地に23拠点を構えるなど生産体制を分散しています。
同社は「顧客の近くで生産する」方針を掲げており、関税リスクの緩和に取り組んでいます。
2024年3月期第3四半期は品質費用の計上などで営業利益が減少しましたが、通期では車両生産回復や為替の追い風もあり増益基調を維持しました。
米トランプ政権の関税引き上げに対しても、サプライチェーン全体でコスト吸収するのではなく価格転嫁による対応を進める方針です。
同社は慌てず着実に顧客と交渉しつつ、為替変動(メキシコペソ安等)によるプラス効果も勘案して利幅の維持を図ります。
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電子部品大手の村田製作所は売上の大半を海外市場に依存しています。しかし、米中貿易摩擦に備え、中国に集中していた生産拠点をアジア各地に分散する複線化を進めてきました。
そのため、トランプ政権による新たな関税強化でも直接的な影響は軽微と判断しています。むしろインフレ進行による最終需要の冷え込みを最大の懸念要因と位置づけています。
2024年3月期は主力のスマートフォン向け需要低迷で減収減益となりましたが、直近の四半期業績は予想を上回り下げ止まりの兆しを見せました。
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日本製鉄は2018年以降の米国通商拡大法232条措置(鉄鋼25%関税)の下で現地戦略を強化してきました。
米国顧客には米国内の合弁製鉄所などから供給する方針を徹底しており、追加関税が引き上げられても自社への影響は限定的とみています。
足元では中国を中心とする鉄鋼需要低迷により、2024年4-12月期の事業利益が前年同期比18%減の5661億円となりました。
通期の見通しは据え置かれていますが、構造改革や高付加価値製品戦略で収益力を維持しています。今後も海外生産の活用や必要に応じた貿易措置の要請を通じ、関税リスクに対処する構えです。
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任天堂にとって米国を中心とするアメリカ市場は売上全体の約4割を占める重要市場です。生産拠点を中国からベトナムやカンボジアなど東南アジアに分散し、関税リスク軽減を図ってきました。
しかし米国の「相互関税」政策では東南アジア諸国からの輸入品に高関税(ベトナム46%、カンボジア49%など)が課され、次世代機「スイッチ2」の米国販売戦略見直しを迫られています。
任天堂は4月、米国での同機種の予約受付開始を延期し、関税や市場変化の影響精査を表明しました。発売日は据え置く方針で、価格設定の調整や物流経路の最適化により関税の影響を極力抑える構えです。
2024年3月期はハード販売減速で業績が大きく落ち込みましたが、ソフト販売は堅調で利益率を維持しており、新ハード投入による業績回復を見込んでいます。
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信越化学工業の売上高は海外比率が8割近く、そのうち米国市場が約3割を占めます。 主力の塩化ビニル樹脂(PVC)は原料調達から製造まで米国子会社で一貫生産する体制で、輸入品への関税強化局面では現地生産の同社に優位性があります。
一方、半導体ウエハーなど電子材料分野は販売先が世界に分散しており、米国向け売上比率はそれほど高くないため直接的な影響は限定的とみられます。
ただし報復関税による世界経済の下振れには注意が必要で、建設需要や半導体投資の回復遅延など間接的な影響も警戒されています。
2024年3月期決算は市況調整で減収減益となりましたが、高い利益率を維持して財務基盤は健全です。2025年3月期は業績反転の見通しで、強固な事業基盤を背景に関税リスクによる業績への影響を最小限に抑える構えです。
米国による関税措置の再発動は、日本企業にとって大きな経営リスクとなっています。特に自動車や部品など輸出依存度の高い企業は、直接的な影響を受けやすい状況です。
投資家にとっては、短期的な業績動向だけでなく、企業がどのように関税リスクに対応しようとしているかを見極めることが重要です。
今後のシナリオは、大きく二つに分かれます。ひとつは関税政策の長期化です。
この場合、輸出企業はコスト負担が重くなり、現地生産の加速やサプライチェーンの再編が不可避になります。
もうひとつは、国際協議を通じて関税が部分的に緩和されるケースです。これは市場に安心感をもたらし、一部の輸出株にはリバウンドの機会が生まれます。
投資家は、各企業の北米依存度、現地生産比率、価格転嫁力といった要素に注目すべきです。 また、為替相場や米国景気の動向も業績に大きく影響するため、マクロ環境も合わせて考慮する必要があります。
短期的には内需株やディフェンシブ銘柄が相対的に強くなる可能性がありますが、中長期ではグローバルで安定成長が見込める企業を軸にポートフォリオを再構築することが求められます。
今回のトランプ関税は、日本企業にとって自由貿易体制の脆さを再認識させる出来事となりました。
特に、グローバルにビジネスを展開する大手製造業にとっては、地政学的リスクが企業価値に直結する時代に突入したことを意味しています。 世界の政策環境が複雑化するなかで、想定外の規制や制裁に対する備えが、今後ますます重要になります。
企業に求められるのは、柔軟かつ持続可能な経営体制の構築です。
例えば、複数国での生産分散、顧客基盤の多様化、リスク対応マニュアルの整備などが挙げられます。
これらの体制を早期に整えられる企業ほど、不確実性の時代においても成長を継続できると考えられます。
また、政府の役割も無視できません。外交交渉力を高め、民間企業を後押しする環境整備が欠かせません。
今後も、地政学リスクは形を変えて継続すると見られます。企業と投資家の双方が、短期的な変動に惑わされず、長期的な視点で「持続可能な成長」を支える仕組みを模索していくことが重要です。